ある病棟に目の見えない患者さんが入院されています。
親御さんにも捨てられたような形で長い間私の勤める病院に入院しているのですが、本当に可愛いお兄さんです。ニコニコしていつも廊下を往復しているのですが、隣の病棟から通常私だけが使う扉をガチャりと開けて病棟に入っていくだけで満面の笑みで私の方に近づいてきます。
目が見えない分の補償的能力なのでしょうか、あたかも見えているかのよいうに私の歩く音だけで「X先生~!」と何時でも呼びかけてくれます。スーッと近寄ってきて、私の存在を確認すると私の上半身と腕を撫で擦りながら「元気ですか~」と明るく挨拶。
ところが、この患者さんはいつも幻聴が聞こえてくるようで、私に「ほら先生、テレビが聞こえているでしょ。あの音から遠ざかっていっても音がどんどん大きくなって聞こえてきます。」とか「ベッドで寝ているときも人の声がしてくるんです。」とか説明してくれます。
いつも精神科の患者さんとお話をしていて思うのですが、彼の場合は悪口をずっと言われているのが聞こえてる訳ではないらしいのですが、何らかの声が常に頭の中で語りかけてくるなんて言うのは相当に辛い世界だなと思います。中には聞こえているけど、そんな事を言うと人から「あいつは頭がおかしい」と思われるのが嫌で敢えて話さないという人もいると言う話を他の精神科の先生から伺ったことがあります。
人の精神というのは本当に複雑怪奇。分子生物学的な問題や薬の使用による幻聴、脳の器質的障害によるものなどでも人の脳は本当に多彩な症状を人に現します。投薬で症状の消失する人もいれば余り変わらぬ人もいてその効果も様々ですが、悩む人にはそれが効果を表すことを祈るばかりです。
しかし、ここでちょっと思うのですが、宗教の始まりなどというのはこういう「声が聞こえる」系の人達が始祖いなっていることが多いですよね?実はこういう人達は昔は神の遣いなどと言われていた人なのではないかと一人考えてしまうのでした。世が世なら・・・と言う人達が精神科には実は多いのかも知れませんね。
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