2019年12月13日金曜日

塀の中の人生

受け持ちの患者さんと少し長い時間話し込む時間がありました。

その患者さんというのは一言でいうと「筋モノ」だった人物で、私より二か月ほど年上。その半生の大部分は塀の中の暮らしでした。最初は少年刑務所。当時は冬に氷点下20度になるような環境で、当時の年少はポットン便所。

凍える中で水は出ず、歯磨きに成功するのは週に一回というような環境だったといいます。だからと言って懲りないのが彼の彼たる所以。カッと来ると止めに入る人間も含めて全員をなぎ倒してしまうんだそうです。

いわゆる武闘派というタイプの戦闘第一の人生だったようで、年少だけで三回も入所。
15歳からヤクザをやっていて、三回目の出所をしたときには年老いた親分がなくなってしまい組自体が解散。そのあと移った組で自分の兄貴分に当たる人間の女癖が最悪で、自分が傷害事件で入所中にその女性が刑務所に訪問してきたときに涙ながらにあってはならぬことをその兄貴分にされたとのこと。通常、入所中に人の女に手を付けるということはいわゆる「やってはならぬこと」の不文律第一条らしいのですが、まあそうだろうなと思います。

そのあとは組を出て、いわゆる全国的に有名な多分日本人なら誰でも知っているXX会の人間として仕事をしていたらしいのですが、もちろん細かいことなどは一切お互い聞きもしませんし話も出てきません。

しかし、その彼がしみじみ語るその日常生活というのは嫌になるほど普通の人間の感情が渦巻く普通の世界。ただ、恐ろしいのは決着のつけ方が「普通では無い」よいうところ。
クスリの話や対決の話、親分子分の関係、女、堅気とのつながり、やばい仕事関係の話などもそこそこ出てくるのですが、やっぱり思考回路が違うなと感じてしまいます。

しかし、老いてきた時、即ち「力」というものの勢いが削がれてくるような歳になってきた今、彼が受け容れなければならない病気による衰えは普通の人以上に彼自身を小さくしてしまっていると感じるのでした。

50数年の人生のうち、塀の中に30年以上住んでいるというのは一体どういう感覚なのでしょうか。そういう彼も今の時代の中で既に組からは「もう関わるな」と言われるような事を言われ、女性からは連絡をしてくれるなと言われ、自分から電話番号とアドレスを消したとのこと。

いったい今の彼の胸中にはどんな思いが去来しているのでしょうか。斬った張ったの人生も、別の意味で容易ではないようです。


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