2023年5月11日木曜日

アル中の毎度の言い訳

今日も診察室でウンザリさせられました。

もっと正直に言えばガッカリです。重篤な肝機能障害で入院してきた患者さん。原因はアルコール中毒です。腹部CTを撮ってみると明確にLCパターンと呼ばれる肝硬変の画像が出てきて、周囲の腹水貯留なども明確な状況。御本人にも画像を見せてそれが危機的な状況であることを十分に納得させた上で、状況は厳しいけれどきちんと頑張っていくという同意を得た上で治療を開始しました。

幸いにして、知性にダメージを受けていなかった方だったので、治療上のロジックや今後の予測される状況の推移などを説明しても納得づくで治療に専念してくださいました。腹水などは穿刺無しでも十分に経口服薬による薬剤治療に反応し、そのうえで、これからリハビリによる筋力増強のステージに入ろうという時点で有る問題が発生。

それは、保険の関係で二ヶ月目の入院になろうとすると保険の内容が変わることでリクエストされる追加の5万円を半年以内にローンで払うことになるという条件に一旦は納得したものの後になって「やっぱり退院したい」と言い出して、3日後に退院してしまったことです。一度は説得して「今の時点で止めたら恐らく元の木阿弥」だと言ったのですが、半年程度で払う5万円よりも命のほうが安いと判断されたようでしたので、敢えて何も言いませんでした。

さて、退院して僅か3週間。体重を15キロ以上増やして今日の診察室に戻ってきました。共同で治療にあたっていた循環器の先生と二人で顔を見合わせて深く溜息。御本人は意気軒昂でしたが、我々の溜息の本当の意味を理解していません。

診察室で彼が滔々と自説を展開。酒は呑んでいないし、この体重増は水ではなくて食事がまともになった事によるリバウンドで云々…と。

明確な腹水貯留とおそらくは胸水の貯留の再開などが物凄い勢いで再開しており、心不全の増強とともにもう二度とは戻れない肝硬変のステージを通過してしまったと感じました。アル中の人達に実に面白いほど共通する「特徴ある言い訳」を我々2人の医師の眼の前で延々と開陳してくれましたが、我々としてはその言い訳に苦笑いをしつつ呆れるだけでした。

恐らく世界中でアル中は違う言語で同じ様な言い訳をしているのだろうな、と考えてしまうのですが、私はこのアル中に独特の病識の欠如とか自分の病態の無視という独特の自己認識の状況を毎度観る度に、複雑な気持ちになります。

彼の命のためには戻ってきて欲しいけれどそれを強く言っても従う人ではないという事を知っているだけに残念な午後になりました。


0 件のコメント: