働くことは素晴らしいことだと改めて認識できた貴重な一晩となりました。
夜も12時が近づいた頃、ナースから私のPHSにコールが入ってきました。精神科のいくつかの病棟を、何人かいる私達内科医が分担して担当しているのですが、その病棟の一つから「XXさんが胸が苦しいとおっしゃっています」との連絡が入りました。
バイタルサインを聞いたところ、明らかにそこそこの高血圧状態なのですが、何よりも頻脈が発生していることと、腰から背中にかけての痛みがあるとのこと。
熱などはなく、冷汗も発生していないとのことですが、腰から肩にかけての弱い痛みがずっと続いているという状況は変わらず。もともと高脂血症と、慢性膵炎を繰り返す高アミラーゼ血症もありましたし、高尿酸血症もある方。夜間でも測定できる血糖値は正常でしたがSpO
2はやや低めで94%程度。
しかも日常生活上の食事指導もほとんど守られていない人物です。まだ40代と若いのですが、ほんの数ヶ月前に糖尿病まで発生しています。
実父は息子の病気を全て持っていて、かつ更にコントロールが悪く症状が進んでいる感じの車椅子生活者。しかし、精神科主治医の話によればこの父親という人物も極めて治療に対しては自暴自棄状態で、いつ亡くなってもおかしくないような生活をしているということでした。
狭心症や心筋梗塞、大動脈解離や気胸、なんかも十分ありえることなのでまずは出来ることからと心電図を急いでとっても、心拍数以外は以前の平時と変わらぬ心電図でした。
生化学的なデータを測定したくとも当院は夜間はその手のマシンのスイッチはオフ。近くにある更に大きな夜間救急病院で画像診断を含めたフォローアップが必要と考えられましたので、救急外来の先生に直接連絡を取り、急いで紹介状を書いたあと自分の病院の車を使って送り出しました。
看護師さんに同乗してもらい救急外来へ送り出した三時間後に帰院して来ましたが、話を聞いてみると到着後すぐに大量嘔吐したとのこと。その後、画像診断や生化学的な検査を経て循環器専門医の診断もおわり、とりあえずは今日は帰宅しても問題ないということで帰ってきたのは良いのですが、そもそもの症状の始まりの話を聞いてみると、呼吸が苦しくなった後、隠し持っていたタバコを吸って更に呼吸が苦しくなった上に背部痛が出てきたというのですから呆れてしまいました。
この方“実質的には”長期の社会的入院でして、何故入院しているのか私自身は良くわからないのですが、日本によくあるパターンなのかなとも推理してしまいます。
ある理由で障害者年金を貰っているため、何もしなくても毎月いろいろな名目で15万以上の収入があるということで、そのお金を週末になると買い物に使っているとの精神科主治医の話でした。
私自身は、この手の「働けるのに働かない」人間には非常に厳しい。いろいろな意味で。
理由は簡単で、そういった人間をたくさん見てきましたが、正直親の育て方の失敗の連鎖が続いていると思われるような人間が大量にいるのですが、本当に税金喰らい。
私の息子は無論一人で買い物にもいけませんし、人とコミュニケーションを取って何かを人にリクエストすることも出来ません。多分一人にしてしまったら、冷蔵庫の中の食べ物がなくなった後数日で死んでしまう可能性さえあります。
それでも・・・毎日、ウイークデーには私や嫁さんに送り出され朝から夕方まで愚直に仕事をしています。プリミティブな仕事ですが、その手で作られたものが何処でどう使われるかよく判るような品です。私は息子やその仲間たちのしている幾つかの仕事を見る度に「働くことの素晴らしさ、働けることの物凄い意義」を感じるのです。
微力であろうと社会に役に立って、少額であろうと税金を収めることで社会人として世の中にポジティブに参画することの高尚さに胸を打たれます。
入院中なのに医師の指示にも従わず、仕事はできるのにそれは拒否し、週末は買い物に出て障害者年金を毎月食むだけ。
私にはこの人物に何の共感も抱けませんでした。
私の長い当直が終わって朝になったとき、「すっかり良くなった~!」とのことで「競馬新聞」を外に買いに行きたいとのこの患者。ナースがバイタルを取ると未だ170程度の収縮期高血圧と120程度の頻脈の存在が出ていたため、外出を控えるよう彼女が言うと、ふてくされた挙げ句、自室に戻って具合が悪くなったと言って来たらしいです。
もうね、俺的には何をか言わんやという。
精神科の主治医が朝出勤する前の時間帯に、患者が今朝も再度喫煙を繰り返したことを私が指摘し注意すると、「死んでもいいから吸いたい」とのこと。まさに学習能力ゼロです。治療を受ける気がないなら病院と言うところには居る意味がないことをコンコンと話すと「退院します」とのこと。自分で自分のやりたいことをやり尽くして死にたいと宣言しました。
朝お見えになった主治医の先生はそれでも彼を説得し、二ヶ月程度での軟着陸型退院を目指すとおっしゃっていました。本当に優しい方です。
なんとかにつける薬は・・・って言葉は本当だなってしみじみ実感した一晩でした。