ある患者さんが難しい疾病を大学病院で治療した結果、体に大きな傷跡が付いてしまったのですが、その保存的フォローアップをしている途上で認知症状の進行が著しくなり、最後は病棟から自宅に帰って行ってしまいました。
区役所の担当者の方々も終業間際に来られて長く説得されたのですが、患者さん曰く「ここでは何もしてもらっていない」と。しかし実際は看護師さんも医師も毎日毎日必死にこの患者さんの事をケアしていたのです。
それでも、この方は数時間しか記憶が持たないので数時間前の記憶も勿論駄目ですし、昨日の事に至ってはもうそれこそ奇麗サッパリ。まるでご本人の中では消えている訳ですから、この方に責任がある訳では無くて、御本人の頭の中では「確かに」存在しないのです…。誰が悪いという事でも無い、頭の中にあるべき海馬が委縮してしまっている事こそが犯人、しかしこの犯人が住み着いた患者さん御自身に罪がある訳でも無し。orz
結局のところこの患者さんが起こって家に帰っていった後で私が役所の方にお話ししたオファーは、万一今後この方が体調悪化して病院に収容されるような状況に陥ってしまった場合には、普通は行わない再入院を積極的に行いますというものでした。
私の母とそれほど歳の変わらぬこのお婆ちゃんには、強い共感を覚えるのです。実は私の母も心房細動由来の血栓が頭に飛んで以来、次第に血管性認知症が進んできた状態。言ってみればこのお婆さんとあまり変わらんのです。まるで田舎に居る自分の母親を見ているみたいでね、何だか何時もは再入院はダメといっている「我がままによる自主退院」や「暴力由来の強制退院」とは違う哀しみを感じてしまうのでした。
既に癌が転移して他の臓器の方にも拡大を見せておりましたので、多分これからそう長く無い頃にADLが下がりきる状態になって病院搬送になる可能性が高いのですが、それを見越した上での上記のようなオファーを出したんです。
最後くらいは嫌われてでも私が看取ってあげたいな、と感じた今日の午後でした。
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