2023年6月12日月曜日

治療を拒否する患者さん(前編)

やっぱり危惧した通りになりました。入院要請の段階で私自身は強く撥ねつけたのですが…。

そもそもの発端からしてよくありませんでした。ある大きな病院からAさんという患者を受け容れて欲しいと言う要請が当院の医療連携室にもたらされました。しかし、この時点で私はその要請のことなど全く関知していませんでした。

そして次のステップで間違いが入り込みます。若手職員が勝手にその要請にYESの返答をして日付調整までしてしまったのでした。その後になって「実はこんなお願いが来ているんですけど」ということで私に依頼内容の紹介があったのですが、そのコンテンツは唖然とするもので他の幾つかの病院において強制退院を数回繰り返された種々の疾病を持つ方だと判明。

この「退院」というものの中身ですが、通常自己都合にて退院といういわゆる、病院に無断で勝手に退院してしまうとか、病院の人間といろいろなことで揉めたりした挙げ句、荷物をまとめて出ていく等という形の退院も実は全国の病院で起きないことはないのです。精神疾患の方もいれば、認知症の方も居るし、キャラ的に病院という患者さんを治療する過程で患者さんに「病院に留まって治療に専念してもらう」という行為自体に束縛を感じて出ていく人もチラホラ。まあ、そういう事に今更驚きはありません。

しかし、最初から大きな問題を起こす可能性が通常の何倍も高い様な患者さんを入院させても、多くの場合「案の定」と言う形で大きな問題を病院にもたらすだけで、治療スタッフ側が疲弊することが目に見えている様な人は多くの病院でブラックリストに載っていることがじつは多いのです。

こういう問題ある患者さんを裏でよく知っているのは役所。生活保護の担当者などはなにか問題があるとサーッと病院に飛んできて、「済みませんでした。退院で結構です」等という感じで患者さんを引き取って次の施設や病院を探すまで簡易宿泊所系列の場所に連れて帰ったりするのです。(実際にそういう人はあちこちの病院を転々としています。)

ところが、今回既に入院の方向で手続きを取ってしまったということから時計の針を止められないという理由で私の方に来た案件は「生活保護の方ではない方」でしたので、そういう役所介入にもなりません。そこで、せめて家族さんにお話を伺って患者さんの事を前もって良く知ろうと言うことになりました。

お忙しい中、御家族さんには大変申し訳なかったのですが、今回は直に御家族の方に事前に来ていただいて現在までの事情を直接伺って私の方で患者さんご自身の病気の絡んだ生活史や御家族との関係性などを徹底的に知ることとなりました。

結局、お話させていただいて良く解ったのは、この患者さんが子供さん達全員が呆れるような自暴自棄な生活を送った挙げ句、配偶者たるお母さんには酷い暴言を吐き続け接触を拒否され孤立、その上自分のもつ疾病が原因で排泄も出来ない状態なのに、それをケアする人達を罵り続けるという状況が続き、各病院から強制退院を数回受けたという次第。

そのような方が今後どうなるのかということに関して御家族の方ご自身が心を痛めておられるのが痛いほどよく分かる面会でしたが、私からはこの先は恐らくはあまり明るくない展開が待っている可能性を話しつつも、既に(私自身の判断を経ずとは言え!)転院を受けてしまった以上は入院して頂いてフォローアップに挑戦してみますというお話にはなりました。

面会して強く思ったことは子供さん方は実にごく普通の立派で常識的な社会人で、お父さんを反面教師にして育ったような感じであること。お話していても、その事は話の端々から伝わってきました。

子供さんからは「申し訳ありませんがどうぞよろしくお願いします」という事でその日の面会は終わりました。

==明日へ続く==


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