2023年6月20日火曜日

幻が見える人

「幻が見える」というとこの人頭おかしい!と思うでしょうか?

実はそうでもないんです。認知機能が全く正常なおばあちゃんでも、夕暮れ時になるとシッカリとクッキリとハッキリと顔や姿を詳細に記述できるような人間が「冷蔵庫の前に立ってこっちを見ている」とか「そこの柱の隣にベトナム人の女の子が二人来ている」とか、ある有名バスケットボール選手を名前を出して「XXくんが何も言わないで立っているのよ。困っちゃうわ~」とか言うのです。

このおばあちゃん、認知機能を簡易的に測定する長谷川式簡易知能検査スケールと言うので調べてみると30点満点で27点を取ったりするレベル。この幻視という現象を除いては会話をしても全く問題なく受け応えも出来るし、冗談も普通に言える上に日常生活も一人で何でも出来る90代!のおばあちゃんです。

幻視の中でも、この人の場合は複雑幻視と言われるもので、見えるものの形がはっきりしているタイプのものです。因みに幻聴は全くありません。そもそも見えている対象が話すことは無いのだそうで、何にも話さなくて突然消えたりするんだそうです。

幻視が見える人には認知症の患者さんとか、統合失調の一部の人とか、各種疾患でターミナルケアを受けている患者さんなどの低酸素血症などでそのような症状が出てくることがあります。病院でそのような患者さん達に多い証言は「カーテンの影に子供が立ってじっとこっちを見ている」とか「天井の継ぎ目に沿って眼が一杯見えていて困ります」等というのは我々の病棟においては実に何でも無い日常です。

認知症の方ではその症状が消えることがなかなか難しいのですが、統合失調の患者さん等は症状の改善とともにそのような幻視が見事に消えていくのですから素晴らしいものです。

人の脳とは実に不思議なものです。本当は無いはずのものが見える。本人達にはそれが「本当に」見えているのですから私自身は絶対に無下に否定する事はありません。御本人達からその幻視の詳細を伺って、逆に人の脳内にある記憶の中の人の呼び出しの仕組みに感心するのです。

不思議なことに最初にお話したお婆さんは見えるものを「困った」とは感じるものの、幽霊の類だという様には受け取っていないのも興味深いです。

人間の脳というのは本当に面白いものですよね。


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