病棟に緊急入院となったのは90近い小柄なお婆さん。
実は病院の真ん前に住んでいる方です。今までも当院に来られている大学の循環器の先生にフォローされていたのですが、最近は次第に心機能と腎機能が低下してきて下腿浮腫などが進展していました。
年齢なりにシビアな弁膜症もあり、リスクとしては突然死も十分ありえることを既に十分御本人も御家族も理解されています。お婆さんは90近いのですが、頭脳は明晰で今回の件に関しても自分の体に何が起きたかをよく理解されています。
今回の入院前にも何度か心不全の定番とも言える「増悪と寛解」を何度も繰り返していたのですが、今回外来に来られた時はもう息も絶え絶えで、息子さんに車椅子に乗せられて来た時も酸素を直ちに投与しないとパルスオキシメータで測定した酸素飽和度は60%程度しか上がらないという状況。動脈血を採取して測定してみても、幸いにして二酸化炭素は貯留していなかったのですが、酸素飽和度は3L/minの酸素をマスクで投与していても60%程度と言う厳しさ。
同行されていた息子さんには循環器の先生から「今回は間に合わないかもしれません」という事が直接説明され、直ちに病棟に入って頂き注射による厳密な体液と心拍出量のコントロールが開始されました。
あまりの息苦しさにいつものお婆さんの姿はそこにはなく、冷や汗を全身から流しながらびっしょりの体で身の置き所もない様子。寝そべるのも苦しく、ベッドを傾けてのいわゆる「起座呼吸」の状態で過ごさなければなりませんでした。来院が一日遅れていたら間違いなく命はなかったと思われます。
まずは絶飲食で厳密な体液コントロールを開始したのですが、入院時の胸部写真では心臓は極端に肥大化し両方の胸郭には大量の胸水が貯留していましたので、本当に大丈夫なのか私自身もまんじりともしない状態で一晩を越した所で翌日までにかなり状態は改善し、息は辛いものの利尿も十分かかりはじめました。
それからは日を追うごとに体重も低下し、浮腫も消失、胸部写真では一週間ほどなかなか変化のなかった胸水や心肥大も、入院から10日ほど経った頃には体調もキチンと戻って、シルバー・カーを自ら押して病棟の食堂まで自力で移動できるまでに!
息子さんも病院の真ん前に住んでいますから気になって時折病院の真ん前まで来て消息を直接聞きに来られておりましたが、状況を説明すると一安心して嬉しそうにお家まで帰っていかれました。本当に良かった!
しかし、今回は薬が効いたから良かったのですが、超高齢で種々の基礎疾患があるような方の繰り返される心不全はやがて「押し返せない瞬間」というのがやってきます。治療が効いた今回の喜びが今後いつまで続くのか・・・。
神様ではありませんので、標準手順に従うものの、正直なところ祈るような気持ちで治療する時もあるのでした。
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