精神科の病棟に大変元気なお婆さんが居られます。
とは言っても、このお婆さん実は身寄りのない方である上にある種のガンを患って居られるターミナルケアを受けて居られる患者さんなのですが、非常に明るくて話しかける皆を文字通りにこやかにしてくれます。もっとも、病棟に入っている理由の一つに高度の認知症の存在もあるのですがこれがお婆さんをネガティブな方向に引っ張っておらず、どちらかと言うと良い方向に運命を向けてくれているように思えます。
このお婆さんに病棟で私が話しかけるといつも呵々大笑して返事をくれますが、このボケ方がほとんど吉本新喜劇並に面白い。どうやらご自分のことをTycoonと思っているのは確実で、懐にほぼ無限のお金を持っている大人物というか、どっかの私的大企業のオーナーと考えているようなのです。
私がベッドに近づいていってお話をするとおもむろに「おたくは幾ら貰ってるの?」と聞いてくるもので「それほど多くはありませんが生活には困らない程度は頂いております!」と言うと、「あら~、あなた私に良くしてくれるからもう少し出してあげます。いくらか今度の給料につけておくからね」と言ってにっこり笑ってくれますので、私はいつも「ありがとうございます。いつも助かってます。」と言うと、「良いのよ、また困ったらいつでも言って頂戴」と、大所高所から励ましてくれます。w
勿論、現実の私の銀行口座の預金額は全くピクリとも動きませんが、心の中はグッと温まります。
もっと言うと、この方既に80を超えた方なのですが、私が来るといつも私の歳を聞いてきますので「私55歳です」と答えると、「あら、私とほとんど一緒じゃない!私は59よ。ハハハッ。」と返してきて「頑張りなさいよ!」とベッドの上から励ましてくれるのでした。
認知機能が低下したと言っても、こういう感じでの「丸み」を持った認知機能の低下は「病棟の中」では皆を明るくしますね。勿論、これが外の現実世界でカードを持っていたり、資産家で認知機能障害の出た方だとゴッソリお金を騙されたりということになってしまう訳で、現実には大変な問題なのですが、病院内で介護をする人々に守られている間は周りを和やかにさせるわけです。
お婆さんが最後の日を迎えるまで、痛みと苦しみを一つずつ取り除いて優しく見守り続けたいと思うのでした。
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