2018年10月13日土曜日

後医は名医・後編

今回送られてきた患者さんはとある大きな病院からの転入院依頼。

事前に送られてきた紹介状を読むとある種の癌の末期であって、ターミナルケアを依頼したいとのお話が書いてありました。
お家が病院と同じ区内で、御家族もそういったケアをしている間に病院へお見舞いもしやすいだろうと私達でも推測し「それではお受けしましょう」と御返事させていただいたことで転入院が成立しました。

さて、入院してこられた時点で既に3つの病院を転入院されており、その癌の末期と言うにしてはちょっと長い上に一般状態も表面的にはさほど悪くありませんでした。
やや難聴が入っていることと、認知機能に軽度の低下が見られる以外はそれほどの問題もない生化学的な数値に見えました。

典型的な腫瘍マーカーも全て陰性で、何よりも入院してきた時点で撮影されたCTでは有るべき筈のものがあるべき場所に“どうしても”見つからないのでした。
確かにその臓器の機能障害を示唆するす所見はあるのですが、造影CTを行ってもやはり腫瘍の存在を示唆する何の画像所見も得られませんでした。

しかも、色々調べているうちに時間が経過してきたのですが、その当院入院後の三週間の間に生化学的データの値もアレよと言う間に改善してきてしまいました。

疑問に思って前医の病院、及び前々医の病院に、当時の入院時データを画像を含めて送付してくれるように手配したところ、画像は無いという驚愕の返事。
なんと、2つの大きな病院ではその更に一つ前の大きな病院の診断である“XXX癌疑い”の病名を受け取って順送りしている間に、その大事な疑いの部分がすっぽり抜け落ちてしまい、XXX癌が確定診断となってしまって私の勤める病院に来てしまったというのが全く洒落にならないオチでした。

この時点で御家族には直ちに連絡を入れ、どうも癌の末期ではなくて機能障害だけであることを告げ、かつ現時点ではその臓器に関しては特に大きな問題はなさそうだということを告げるために、病院での説明をさせていただくこととなりました。
同じことを患者さんに説明すると「あ~、良かった」との美しい笑顔。

誰にでも起き得ることですが、確認を怠ったというのはやはり大きな問題なんです。しかし、同じことを私が他院に対して行っていないという確証など何処にもないわけで、「以て他山の石と為す」ということを肝に銘じることとなった一件でした。

前医は確かにいろいろな意味で名医ですが、それを信じ切ること無く己も解析を加えることの大切さと恐ろしさを改めて理解できた一件でした。
病院が大きいから、全てが正しく行われているというわけでは無いという当たり前の事も多くの大学病院での事例を引き出すまでもなく、全くの事実だなと思いました。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

いつも読ませて頂いております。そんなこともあるのですね。患者さんがご高齢だったためでしょうかね。

small G さんのコメント...

日常生活の活動性に全く問題ない方でしたので、XXX癌末期という申し送りで情報を受け取った患者さんご本人とご家族に対する説明は大変神妙なものにならざるを得ません。
ご高齢であろうがなかろうが、関係者への精神的なダメージも大きなものですので、医療従事者としては申し訳ないの一言です。
今回はネガティブなニュースがポジティブに変わったので仇良かったのですが、逆のことを私自身がしないように自らを戒めるのみです。