2023年4月29日土曜日

西村賢太と言う男を知った(偶然)

久しぶりの当直でした。

病棟から戻ってきて音も無い部屋でぽつねんと椅子に座っているのも何となく侘びしかったので、当直室にあるテレビのスイッチを付けました。番組一覧をつらつらと眺めてみてもなんにも自分の気を引くようなものはありませんでした。

そのままスイッチを入れたまま取り敢えずシャワーを浴びて、再び診察用のスクラブに着替えてそのままパソコンを眺めていたところ、NHKの画面からある私小説作家の話が流れてき始めました。そこには或る本のタイトルが映し出されていました。

苦役列車と書かれたタイトル、そう言えば以前アメリカに居た時にどこかのウェブ・ニュースでこの本のタイトルを見て「何だか蟹工船の様な話だろうか?」と思いつつ、アメリカに居るから本を容易に取り寄せるような訳にもいかんな、と言う一言でそのまま忘れ去っていた本なのでした。

思わず「ああ、もしかしてあの本を書いた作家のことか?」と思い、画面に見入ったのが最後。その放送で語られる西村賢太の現身たる登場人物の北町貫多の行動や心理描写に関する語りにグイグイと引き込まれていきます。ピカレスクでは無いのですが、明らかに西村氏自身であるドロドロの北町貫多の語りはまさに私の惚れ込む阿佐田哲也(色川武大)にしか思えません。

慌ててネットで西村氏の人となりの概形を掴もうと、彼と交友のあった人や編集者達の記述を読み漁りました。そして、驚きの事実を知りました。彼が既に他界していたという事実を。

藤澤清造の没後弟子として時代と場所を超えて師弟関係を結んだ西村氏が清造の墓の真横に生前墓を建てて「死んだらここに入る」という親子をも超えた関係を自ら求めていった様子が彼を知る人達の話とともに画面に映し出されていました。

明日、可能な限りの彼の著作を古本屋と本屋を廻って手に入れようと決意した当直の晩でした。これから暫くはこの「極」私小説家の書き遺していった作品群を読み漁ってみることに決めました。


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