今まで何人もの肝硬変の患者さんの最後を看取っています。
通常私が診ている肝硬変の原因としては基本的にB型、C型、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)、アルコール性肝硬変等多岐にわたるのですが、現代の成人病の成れの果てと言えるNASHを除けば圧倒的に私がその人生の最後を看取る事が多いのはアルコール性肝硬変。
代償期から非代償期へと至る過程で精神科病棟のなかの「依存症」病棟に出たり入ったりしている人が実に多い。残念なことですが、実際長い治療の期間を経て出ていくときに「もう飲みません、絶対に。」といって出ていった人が暫くすると何故か院内でウロウロしていることが有る・・・というパターンが多いのです。
カルテの記載を見てみると、隊員のその日に周りの酒飲み仲間から誘われて「退院おめでとう!」という感じでコンビのの周りで一杯やるところから始まって、なんていう人がこれまた沢山おります。残念がら病院のそばにあるコンビニの脇の道端にはチューハイその他の酒の空き缶が山のように捨ててあって、それが果たして病院に入院中の患者さんと関係の無い空き缶なのか?と問えば、多分その殆どは「こっそり」と患者さん達によって呑まれたもの。なんとなれば、捨てられている缶の並んでいる位置自体がコンビニと病院を繋ぐ人が移動する動線そのものですから!
病棟でも治療中の患者さんの飲酒状況が怪しいと判断されたらアルコール・テスターでチェック・アップを入れますが、そういう時にはほぼ間違いなくアウト。本人が治療を継続する意思がなければそのまま強制退院ですし、本人が治療を継続する意思を示した時には同意を得て隔離室に入って酔いが覚めるのを待つという手続きがあったような気がします。(精神科医ではないのでそこら辺のことは詳しくないのですが。)
そうやって何度も飲酒を繰り返し、年数を重ねるうちに次第に肝機能は落ちていくのですが、point of no returnを知らないうちに通り過ぎて腹水が溜まってきたり、ビタミン不足の結果、神経症状が出て手足が動かなくなったり、完全に頭がやられて大脳が高度に萎縮する状態になるまでやはり栄養その他のビタミンを含めた高度な欠乏症でボロボロになり寝たきりになっている人々。
意思が弱いなどという言葉ではとても表現できないし、そう表現してはいけない「環境や遺伝的背景その他を含めた包括的な疾患」として治療対象になっているのがアルコール依存症です。
「酒に強い!」「ザル」等と豪語している人がやがて酒の魔力に絡みとられて沼から抜け出せなくなって亡くなっていく様子を沢山看取ってきました。周りに「らしい人」が居られたら、勇気をもって早めの治療を勧めてあげるのが本当の友人というものではないかと思うのですが、難しいんですよねこれが。
昼は素振りも見せない人が、家に帰ると・・・というパターンも多く、invisibleな状況で自体が進行していき、visibleになった頃には事態は手遅れということが沢山。各人の肝臓にみあった問題ない飲酒量というのもありますので、Aさんがこれだけ飲むからBさんもこれだけ一緒に飲んでもいいというものでもありません。
最近出された論文では飲酒というのは以前出されて半ば常識となっていたJ-Curveはどうやら間違いで、飲酒は少しでもやはりガンその他のリスクを正直に上げていくようです。ごく少量の飲酒のみはそれで循環器の疾患のリスクを少しだけは下げるようですが・・・。
何事も程々というのがやっぱり良いようです。中庸の美徳は酒においても健在のようです。
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