2018年3月26日月曜日

小児科と精神科は家族への対応が大変

小児血液内科の友達が昔しみじみと言っていました。「小児科医の仕事は親への対応が7割」と。

私自身もその時までに小児科での"短い期間"ではあっても、三か月ほどの研修期間を通して小児科の仕事というのが如何に大変で命を削る闘いであるという事を真近に見ることが出来たので、友人の言っていることが心の底から吐き出されたものであることはよくわかりました。

彼はほぼ24時間小児科病棟に詰めて実質的に住んでいるような状態で生活していました。彼がクリスチャンであることも関係していたのでしょうが、命がけというのは彼のためにあるような言葉でしたというのは彼のためにあるような言葉でした。
三十代で髪全体が真っ白となり、奥様がその病室に一週間分の下着と服を届けると、代わりに彼がそれまで来ていた衣類や下着を奥様に持って帰ってもらうというような日々。

正直、そんな過労死レベルをはるかに超えて働く彼を傍で見ていて考えていたのは「死ぬなよ」という言葉。本当に彼の双肩に県全体の小児血液疾患の治療が任されているというレベルの仕事量で、俺のようなダメ人間もいれば彼のような聖人もいるのだなということが鮮やかな対比として眼の前で現実に示される状況でした。

しかし、そんな彼の治療に対してもやはりご両親は我が子の命がかかっているとなると別人のようになるんですね。その気持ちはわかります。自分の子供を抱きかかえてドアをけ破って入ってきた小児科の先生というのも私の居た大学では伝説にはなっていますが、本当に居ましたもんね。

後に彼がアメリカに来たときは研究者として先に生活していた私はそれなりに世話をさせていただきましたが、彼の留学生活は決して幸せなものとは言えないものでした。それでも仕事はきちんと責任をもってやり遂げる。彼のような高い倫理観と遂行能力が医師の高度な治療の内容を支えているんだろうということがどれだけ彼のもとを訪れる子供のご両親に伝わるか、いや伝わって欲しい、そして彼の努力が報われて欲しいと心の底から念じ続けておりました。

翻って日本に戻ってきて内科を受け持ちつつも精神疾患のある方々を見ることの多い私ですが、これはまた別の意味で家族への対応が大変であることを感じる日々です。
文字通り家族に捨てられてしまった患者さんの元へ家族を引き寄せる可能性を考察することや、家族のほうが患者さんよりおかしいんじゃないか?という感じの家族までいろいろです。

精神科の患者さんの家族だからと言って特別なわけではないのですが、家族のほうが精神科に特別な偏見を持っていて、せっかく治療してきちんと良くなった家族の一員たる患者さんを連絡しないでくれとばかりに「蔑ろ」にしている事も多々あります。(しかし精神科治療に対する偏見は21世紀の現代も、アメリカとは比較にならないくらい、日本は古めかしくてステレオタイプのものですね。)
無論、その家族に対して以前迷惑をかけたから連絡するなというようなことを言ってくる家族の方々もいるのですが、そういったことが無くても、病気が治癒した後も関りを避けて、連絡先に電話を入れるな!と逃げてしまうご家族も一部おられるのでした。

本当に医療職というのは勉強するだけでなく、全く毎回パターンの異なる背景を持った人々への対応とそれ自体への重い責任を取らなければならないといった意味では大変な仕事です。金のことだけ考えてこの世界に入ってくるような若い人や、成績が良かったからというだけで入ってきた人達は後々辛い目に合うのかもしれません。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...


>せっかく治療してきちんと良くなった家族の一員たる患者さんを連絡しないでくれとばかりに「蔑ろ」にしている事も多々あります

これは読んでいて胸が痛みました。
患者さんのことを考え理解しサポートするはずのご家族がそんな状態では・・・

それにしても大きな病院の小児科医さんはそんなに激務なんですね。
激務→なり手が減る→もっと激務になる・・・ということなのでしょうか?

small G さんのコメント...

いや、実際に発症した身内に酷い目にあって・・・命からがらと言う御家族も居られるんで、外野の私が簡単に論評することもできないんですが、やっぱり見ていて辛いです。

小児科の件なんですがまさにおっしゃる通りのことが現場では起きていて、「激務→なり手が減る→もっと激務になる」という悪循環が全国で多発しております。そして訴訟を避けるために、本当はなりたかった小児科や産婦人科をビビッて諦める若者も多いのです。その結果日本で何が起こっているかという事は報道などでご存知かとは思いますが・・・。