当直中にペレルマンのポアンカレ予想に関する本を読みました。
タイトルは完全なる証明というもので、これで彼に関する本を読んだのは三冊目。今までのものはどちらかと言うとその予想そのものを外部の人に説明する過程が長いものがメインだったのですが、この本では”人間”ペレルマンのことを内面から”推測して”描いています。(書いた人がこれまた当時のペレルマンとほぼ同じ環境に居た人によるものですからディティールのリアリティー満点。)
多くの人にとってポアンカレ予想というのは「単連結な3次元閉多様体は3次元球面 S3 に同相である」という言葉を聞いても全く理解できないものであろうし、私にも概説を読んで何となく外の輪郭がわかっただけで、その証明の道筋など全く理解できません。
100年間の謎を8年かけて考え抜いた天才数学者ペレルマンの証明は、リッチ・フローの外科手術を経てその証明を絞り出していくもの・・・とは言っても書いている私も何のことだか解っておりませんがそんなもんでしょう。我々の分子生物学の世界でさえ、何の準備も出来ていない人に我々の仕事の説明を正確にすることは殆ど無理な世界。ましてや世界最高レベルの頭脳が挑む問題の証明など理解できないのはあまりにも当然といえばその通りです。w
今回の本では同じ時期にレニングラードの239学校に学生として入っていたり教授陣としてその設立運営に関わった人々の生涯、及びその人達のペレルマンとの実際の関わりの中で描き出される彼の人間像を中心に描くことで当時のソビエト社会の中でどうやってこのような奇跡的なレベルの教育と数学の発展が為されたかを緻密に描いています。
読んで理解できたのはペレルマンの天才もさりながら、彼はソビエト数学者のトップの一群の人々が(その数学的才能を遺伝的にも教育的にも与えた母親も含めて)素晴らしい”作品”だということでしょう。
充分に練られた遠大な計画のもと育て上げられた最高級の頭脳が世紀の難問をスライスしていく様は外から見る以上に物凄い苦闘の連続であったろうことは想像に難くないのですが(ユダヤ人としてソビエトに生きる恐ろしい程の苦難は繰り返し繰り返し描かれます。)、それを最後の最後で世俗のみならず最も信じた数学者の世界にあんな形で裏切られたペレルマンの内心を思うと周りの人間のとった行為はまさに俗物的かつ余りにも愚かだったという点で、数学という人間の最高級の思考形態を貶めた”罪”は重いと考えます。
カネの繋がった賞自体、このレベルの天才にはもはや”俗”以外のナニモノでもないのでしょう。
興味の有る方は一読をお薦めいたします。
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