新年最も驚いたニュースはある薬に関するものでした。
PRI-724と言う薬がそれで、PrismBioLabがだしているWnt/β-カテニン経路の阻害剤のニュースはそれなりに知る人が知るというドラッグだったのですが、その薬が第二相臨床試験に入ったというものでした。
この第二相臨床試験というのは文字が示すように数字が上がるごとに人に応用されていく度合いが高まる臨床試験のことなのです。この段階になると、第一相の”正常人に対する薬理動態や安全性のしきい値を探っていく段階から、応用する数を増やしていきながらも”患者さんも”含めた実験に移行していくものです。
それで更に有効性が確認されていくことで、その治験数を更に増やして小規模の集団では出てこなかったような思いがけない副作用の出現を探索したり、前相の小規模治験で起きた副作用のパーセンテージを更に確定していくというような段階です。
私もその経路関連の実験においてこのWnt/β-カテニン経路の阻害剤(別のもの)を使うことがありましたので、理解しているのですが、実際に使用するときはその毒性の強さから、少しでも希釈濃度を誤るとすぐに細胞が死んでしまうほどのものだという認識がありました。こう言った特徴は他のsignal transductionに関連した信号経路阻害剤の多くにも共通した特徴で、ちょっとした濃度の差で、見たい効果に不必要なシグナルの活性化を起こしたりするため、この微妙なさじ加減のセットアップが常に我々を悩ましたものです。
なにはともあれ、この阻害剤PRI-724の何が凄いかと言って、抗癌剤としての作用ではなく(無論それはそれで凄いのですが!)線維化した細胞を溶解した上に、結果として細胞の再生が促されるというもの。
同社のHPにも”現状では線維化を改善する方法は無く、その進行を遅らせることができるのみです。我々は、動物実験において、PRI-724が線維性結合組織を改善することを確認し、C型肝炎による肝硬変、特発性肺線維症 (IPF) 等の治療薬としての可能性を示すことができました。”確かに、この記述は私の驚きにとって本当に大切な部分で、通常我々医師の常識としては線維化した細胞はリバーシブルでないというもの。
つまり、肝硬変や肺線維症などの有る一定のラインを超えてしまった疾患様態は我々医師にとって「残念ですが、これ以上は悪くならないように種々の方法を用いて代償するための治療法を応用してまいりましょう」と患者さん達に告げるしかなかった疾患に対する根治的な治療法を提供することができるようになるわけです。
ですからこの第二層臨床試験突入というニュースは、私にとっての素敵な初夢となったのです。
無論、第二、第三相を突破できずにお蔵入りになる薬のほうがよっぽど多いわけで、全く予断は許さないわけですが、こう言った阻害剤による細胞生物学的なレベルでの「驚きの事実」が判明した事自体が未来に向けての更なる飛躍を示すことが出来たことで、将来におけるその改良も含めて明るい未来からの曙光が今の時代を照らしている素晴らしいになったものだと思います。
いや、やっぱり科学って素晴らしい!(それに万が一にでも大成功すれば恐ろしくお金になります。w)
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