日本に帰ってきてこの12月でほぼ四年ですが、その間に肝硬変末期の患者さん達を十数人診ています。
そのうちの7、8人はアルコール過飲による肝硬変。
御本人方がアルコールを飲みすぎるようになった原因はそれぞれ違っていて、一人の方は料理人をされていた時に、周囲の人間達に「強い、強い」と言われていい気になっているうちに酒が本当に止められなくなってしまい、気がついたときには飯もおかずも何も食わずに酒だけを飲み続ける日々となってしまって仕事も失ってしまったという人。
他の一人は複雑な家庭事情から逃れるために酒を呑むという、本人曰く「自棄(やけ)酒」で体を壊してしまったという方でした。お話を伺うと、確かに生まれ落ちた初日からいきなりのハード・モードでのスタートで、ただの貧乏人の倅だった自分等とはいろいろな意味で”育っていく為の条件”がキツ過ぎて・・・。
淡々とされる話を聞いていると、一体どこの国の話だろうと言いたくなるような物凄い生育環境だったようで、肝臓をぶっ壊すまで酒を飲みすぎることを擁護するものではありませんが、「なるほど、これはキツイ」と同意したくなるような半生を送ってきたようです。
またある時は、本当に末期の最後の数日だろうというような患者さんが最重症の患者さん達が入る1号室の部屋を抜け出して、真っ黒な皮膚を晒したまま病衣一枚で近所のコンビニに出かけていったあと、缶酎ハイを袋に入れて病室の前で呆然とした姿で立っていたこともありました。
治療の開始前に、あれほど「一生懸命治療しますから、Xさんも頑張れますね!?」と話したときにはウンウンと頷いて涙を流していたのですが、その呆然とした姿を見つけて私が驚いて駆け寄ると「もう死んでもいいから呑ませて」と懇願されたこともありました。
嗜むと言うレベルで飲酒が止まればいいのですが、そこは人間。ある一定の条件が揃うと、ある一定の確率でヒトはアルコールの魔力に負けて向こう側の世界へ行ってしまうようです。嫌酒剤や精神科医からのサポートなどいろいろな方法を使ったあとでも、結局のところそれをやめるか否かは本人の強い意志。
最後の段階になってしまうと内科医のできることは本当に限られてしまいます。医師としてアルコール過飲を止めてあげられないことに無力感を味わうことの多いアルコール性肝硬変末期の患者さん達がいます。
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