2014年1月24日金曜日

素晴らしい人生の終わり方

今日は辛い出来事がありました。

私が務め始めた病院で30年以上にわたって働かれておられたドクターが、88歳で亡くなられました。
医者ですので、御自分でその診断結果も全て理解されておられ、予後や治療法についても完全に納得された状態で生活をされておられたのですが、一週間ほど前から食欲が低下して来たために、自分の働かれておられた当院でそのまま保存的な治療を行っていたのですが、奥様とともに家に戻って「シャワーを浴びたい」ということで戻ろうとされたところで急変し、再びシャワーを浴びることなく院内へ戻って来られたところで死亡確認がなされたのでした。

私がショックを受けたのは、帰国してすぐのことでしたので、私などとはお付き合いがほとんどなかったにもかかわらず、親しくお話して接してくださったことでした。
御年89歳にもならんとする高齢にもかかわらず、記憶は鮮明、言語も論理的な推理力も全て非常にクリアで、旧制高校の頃のお話や、戦争当時のこと、そして現在の世界情勢に関しても的確な意見をお持ちで、そのお話を伺いながら「当時のエリート」達の質の高さを直接目の前に見せつけられるような衝撃を受けました。

私が診察と挨拶を兼ねて先生の病室の中に入っていった時、「まあ、先生座りなさいよ」という言葉をかけて下さりましたので、お言葉に甘えてお話を伺うこと約30分、軽い感動を覚えて部屋を辞したところで上品な御高齢の奥様にお会いしてそのお話をしたところ「主人は旧制高校に行っていたことを誇りにしていましてね、、、。来月の89歳の誕生日を迎えたいなんて言っているんですが、、、。」と話されていました。

シャワーを浴びに帰ろうとされたのはその直後のことで、会ってお話をして一時間も経っていないのに、次に先生のお姿を見た時には既に呼吸停止状態。
治療方針としてはこれ以上何もせずお見送りをするということでしたが、御身体をベッドからストレッチャーへ移した時に感じたその温もりは、今にも目を開けて「おいおい、何しとる?」と語りかけてくれそうな気がして、ちょっと胸が詰まりました。ご遺体を運ぶ道すがら、全病棟から先生のお世話になった看護師さん達が集まり御冥福を祈っておられました。

亡くなられる一週間前まで病をおして仕事をされ、頭脳明晰のままで誰にも迷惑をかけず亡くなられた先生のお姿をお見送りしながら、自分の人生が、こんなに立派で誇り高き最後を迎えられるだろうかと考えた時、とてもそんな訳にはいかんだろうとふと考えたのでした。

尊敬すべき理想的な人生の締めくくりをされた先生に合掌。

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