ノーベル賞を受賞された大隅先生があちらこちらでお話をされているのを見聞きすると、その内容に大変感銘を受けます。
大隅先生ほどの確固たる知性とセレンディピティを兼ね備えた先生が書き込まれている文章を読むと己の不明を恥じるばかりで、彼我の巨大な差を思い知らされます。
大隅先生はノーベル賞を受賞されたからあのような話をされているのではなく、そのはるか以前からずっと日本の研究者の研究推進方法に警鐘を鳴らされるのみならず、研究室に配られる予算などの細かい部分にまで思いを馳せられた、若い後輩たちに十二分に心を砕かれた文章をあちこちでしたためられております。
そういった細かい事情まで勘案され、内情も理解された上でやはり「流行りを追うな」と言われておりますが、実はこの”耳に痛い言葉”は(元を含めて)私を筆頭とする多くの”凡庸な研究者”にとっては大きなリスクを背負いかねない言葉ともなり得ます。
多くの優秀な研究者が切り拓いた既にある程度の方向性がついているものの落ち穂拾いをして論文を出しつつ、自分のやりたい”リスクの高い”こともやるというのがある程度”生き残ってきた研究者”の普通の姿だと思うのです。(これぞ自分のオリジナルと思っている研究も世界に目を向ければ最低五人は他の人間もやっていると思えというのはよく先輩の研究者方から伺いましたが、歳を重ねるにつれてその通りだなと思うことに出会いました。)
もちろん、極めて優れた先生の中には流行りの研究であっても骨太の実験ができる人がいるのもまた確かですし、大隅先生のように流行りとは全く関係ないものを追い続ける確固たる信念をもち自分自身がトレンドを作ってしまわれるような凄い方もおられます。しかしそういった人は正直な所少ない。事実としてはその多くは調べるものの対象を手を変え品を変え出してみるというような研究者が多いのです。
それに、トレンドでない研究はその研究自体の重要性を理解できる人の少なさもあり、なかなか予算的にも注目を浴びないと言ったことも極普通で”成功した場合でも”長い間、苦汁を味わい続けさせられたという方もありきたりの話です。ましてや”世間的には”成功すること無くオモシロイと思ったことをやり続けることが出来た幸せな人もおりますが、研究のための予算捻出には死ぬ目にあっている人もまたいることは事実。(研究を公平に相互評価する日本のしくみがより磨き上げられればそれに越したことはないのですが、こればかりは100年経っても完全に公正になることはないでしょうね。)
いま記したように、研究室の世界には上からの”予算の配分”と言うものがありまして、これも大ボスに守られて大ボスの枝葉の研究を確実にこなして論文を出して昇進を重ねる人もフツーにおります。これらの人は研究者としては面白みは何もなくとも取り敢えずそれらの有名大学ではやがて肩書なりに”重鎮”と呼ばれる人達になります。(研究の世界で必要だったか否かはこの際脇に置いておいて。w)
そのような比較的”無難な人”でなくとも、某O保方さんの如く恥も外聞もなく、世界の超一流のラボで後先考えずにいろいろとやらかしてまで周りの一流の先生達を巻き込んで結果を”作っていく人”もおりますので世の中魑魅魍魎に満ち満ちてはおりますが。
しかし何れの場合も、研究を開始し最終的に結果を得ることで初期の目的を達成していくのに必要なのは何はともあれ予算です。人的資源もあれば更に文句はありませんが、これはまずはお金という予算があってのこと。(特に医学生物学系は)そういうときにボスが強いというラボでは当然のごとく金が周りやすいのも世の常なんですね。
良い研究には良い人が集まり大きな金がというのは最初に火が点いてこそ!というところがありますので、その火が着火する前に消えていく研究の萌芽と言うのもまた多いものなのです。ですから、大隅先生のおっしゃることはわかるのだけれども、それは研究に大隅先生のような意志と能力(そして多分LUCK)があればこそという気が致します。(多くの研究者にはそれほどの骨太なものは備わっておりません。)
ですが(私のような三流が不遜なことを書くなという誹りを受けるのを承知で書けば)大隅先生のような方だけではこの世界が成り立たっていないのも事実。色んな人がいろんなことをやりながら家族の生活を守りながらも、明日の予算に汲々としながらもやっていくツマラナイと思われる枝葉の研究もまた研究だと考えます。ですから、若い方々には大隅先生の言われるように「他人の作った流行り」を追い続けなくても将来の骨太の研究を遂行できるだけの実力をじっくりと醸成してから研究の世界に飛び込んでいってもらいたいなと思うのでした。
有言実行。言うは易く行うは難しとはまさにこのこと。大隅先生の偉大さに研究者として改めて頭を垂れるのでした。
2 件のコメント:
学術誌に掲載された日本の研究者による論文数が減っていて、このままでは世界トップクラスの座から落ちてしまうだろう・・・という分析結果をイギリスの科学誌Natureが発表した、という報道を見て、このままじゃ駄目だなあと思っていたところです。
(『論文数減少「日本の科学研究が失速」…英誌警鐘』 2017年3月24日読売新聞)
大学生の海外留学もOECD加盟国中で下から数えたほうが早く、中国や韓国と圧倒的な差があると言われていますね。
いまは大隈氏をはじめとする諸先輩方の努力の結果、日本人がノーベル賞を受賞していますが、このままでは今後は厳しいのかも知れません。
そのノーベル賞受賞者の皆さんも、海外に出て行って研究した結果そうなったという人が多いような・・・?
山中伸弥氏など、日本では研究資金が少ないため研究用マウスの世話も自分でしなくてはいけないが海外ではそうではなくて研究に没頭できるとおっしゃっていたような気がします。(記憶違いだったらすみません)
アメリカなど海外では企業や(お金持ちの)個人からの寄付が多いのか、政府がお金を出しているのか、その両方なのかわかりませんが、予算面で日本より苦労が少ないと聞いたこともあります。
生活保護受給者が増え続けていて社会保障費がかさんでいるけど、学術研究費や教育のための予算(志ある優秀な学生への給付型奨学金など)を出し惜しんでいては日本はじり貧ですよね。
資源が少ないのだから人材を育てないとね。
貴重なご意見ありがとうございます。
これに関しては一日分のブログを使う価値があると思いますので、本日のブログにて意見を述べさせていただく所存です。
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