2008年12月5日金曜日

特許の話

特許と科学と言うのはいつもデリケートな問題を含んでいて中々一筋縄では済まない問題だ。特に大学だけで純粋に研究して特許の事など考える人も少なかったような大らかな時代ならいざ知らず、今では独立行政法人とか言う変な大学組織に改変されて以来、皆が殆ど金になどならないような事に関しても特許を提出しようとしているから大笑いだ。そういう私も、日本の大学に居たころクローニングに成功したある酵素に関する特許を連名で取得しており、今でもあれは何だったんだろうかと考えることがたまにある。特許をとったからといって、その使用を他の大学や研究機関の人間に制限するなどと言うのは科学に携わる人間としてはとても許されないと「感じる」のだ。これを倫理と言うべきかどうかは解らないが、論文で出したマテリアルに関してはその供給が物理的に可能である限り、それを他の研究室にMTA(Material Transfer Agreement)を書いた後、使わせてあげたいと思うし(個人的には相手が紳士である事を信じてMTAさえも書きたく等無いのだが大学の規定でそうもいかない)、その厚意に反するようなラボや個人はこの世界から自然に排斥されるような世界であるべきだと思うのだ。何と言おうと、ラボや大学の屋台骨を支えるような特許などと言うのは本当に稀にしか出ないわけであって、世の中そんなに上手くはいきませんよというのが多くの研究室の現状ではなかろうか。せいぜい作成した抗体を売るとか、その程度のもんだと思うのですが。
では稀な成功例の話を、、、これはイスラエルの研究所に勤める友人から聞いたのだが、彼の友人は循環器の造影に使うあるドラッグの研究をしていて、それを売って日本円にして何と60億円ものキャッシュを得たのだそうだ。これに怒ったのが研究所。この研究者、次に何をしたかというと、金に物を言わせてイスラエルとアメリカから最優秀の知財に関する弁護士を3人雇ってフルに研究所と戦わせたそうだ。結果はもちろん彼の完勝。とっとと研究所を止めて悠々自適の人生を送っているそうです。しかし勘違いしないでいただきたいのは、このような例は殆ど稀にしか起きないわけで、殆どの場合は投資した金すら回収できないで終わりと言うのが殆どだと言うのが実情だと思います。
これに企業が絡んでくると事は一層複雑怪奇でもうMTAを企業との間でやり取りするときなど本当にこちらの大学の弁護士と企業の弁護士との「言葉遊び」にウンザリさせられる。挙句の果てに6ヶ月の交渉の後に得たものは何も無し。などというのがザラで、こういうときはいつも「世界中の知財関係の弁護士は今この瞬間に全滅してくれ」と叫びたくなる。そこには人と人の善意に基づいた紳士協定などどこにも無く、ただ疑いに満ち満ちた欺瞞的な文言の遣り取りと、金銭の行き来がある極めてアメリカ的な世界なのだ。

あ~~~~あ。

人が人を信じる事が出来ない世界では弁護士だけが繁盛しますわ。

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