2009年1月7日水曜日

研究予算

NIHにいた頃の友人達の多くが自国に戻って活躍している。メキシコ、デンマーク、スペイン、イスラエル、日本、アルゼンチン、フランス、オーストラリア、タイ、ブラジル、イギリス。本当に世界各地から多くの研究者が集まって来ては潤沢な予算を元手に多くの結果を残して、自国の科学のレベルを更に上げるべく再び戻っていった。彼らから時折思い出したようにDNAの頒布依頼とか、米国内に残している銀行の口座に振り込まれている特許料の引き出しとか、日本の研究機関への協力依頼の口聞きとか(笑)、アクセプトされた論文の今後の方針に関するアイデアとか、家族の安否をお互いに尋ねあうメールとか、実に様々なメールが入ってくる。中でも最近話題になるのは非常にタイトな研究予算に関連したものである事が多い。大体どの友人も、国家規模で予算が縮小していることを嘆いていることが多く、余り景気の良い話は聞かない。
個人的に言えば研究の殆どはなかなかお金にもならないし、実際の治療には応用されないものであると言うのが基本的な考えで、実際はその病気の発症以前にある基本的な細胞のメカニズム探求と、その正常な状態が異常に変わるまでのメカニズム、そしてそれが異常になった時にどこを叩けば正常に戻すことが出来るのかという事を考えるのが一我々癌研究をしているものにとっての一般的な研究の流れで、最後に書いた部分がどちらかというと臨床応用に最も近い部分であるが、それでさえも実際は異常な部分はわかって、そこを抑えると治療の「可能性」があることまでは解ったが、それを達成するための「人に応用可能なアプローチはどうする?」という部分はまた全く次元の違う問題になってくるのです。
このような世界に関係の無い人達がこういう文章を見てもなかなか解り辛い点があるかとは思うのですが、人に応用可能なアプローチという点に世界的な規模の製薬会社やベンチャーキャピタルが驚くほどの人的資源と資金を投下し、それで十年かけてもやっぱりモノにならない等というような研究は海の砂の粒ほどあるわけで、人知の結晶を傾けてもそれほどまでに困難な事と言うのが治療への応用なのだと思っていただければ良いと思います。良く、ニュースで「XXの原因発見」「XXに効く新薬発見」等と書いてあるのを見る方も多いと思いますが、本当に罪作りな記事が多いです。まあ、大学の研究者自から新聞ネタにするために漏らしていくような厚顔無恥な研究者もいるのだとは思いたくは無いのですが、実際はそのような話も多々聞きます。そのような研究にも増して驚くような発見というのは多々あっても研究者コミュニティーでは盛り上がっても通常マスコミ等には出てきません。ましてや新薬などというのは99%大丈夫だろうと思われたものでさえ、安全性を考慮してそれから先には行かず発売されずにプロジェクトが終了されたりなんていうのも無数にあるわけです。そこを通過して発売されたものでも、マーケットで問題を起こし「薬害」と呼ばれる事態を引き起こすわけですから、基礎研究から臨床応用へのブリッジングというのは格段に難度の高いものだということが何となく理解してもらえれば幸いです。
こんな不景気な時にこそこんな金食い虫でなかなか金にならない基礎研究に落ちる金というのを日米ともに政府レベルで考慮してほしいと思うのですが、差をつけるチャンスのこういうときにそこまで考えが巡るかどうかと言うのは、、、まあ、無理でしょうかね。こちらアメリカではコミュニティー内で、科学予算の減額を認めないように嘆願する大統領への署名を訴えるメールが良く学会レベルのお願いで廻って来ていますが、日本ではどうなんでしょうか。この手のメールは少なくともこちらでは、実際かなり効果があるようです。

ああ、研究費がもう少しあれば、あれも出来るしこれも出来るのに、、、愚痴でした。(笑)

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