2026年10月29日木曜日

消えていく店・後編

実はこの話を耳に入れたのはある偶然からでした。

私の病院に来られているお酒好きの先生がおられるのですが、その方から「あの店のビルのオーナーが建て替えをするから出ていってくれってあそこの界隈の店に全部言って回ってるらしいんです」という私にとっては驚愕の情報が入ってきたのでした。

その先生は亀ちゃんの隣にある名古屋では有名なバーの常連さん。そこのマスターからそのビル立ち退きの話が入ってきたのを私が亀ちゃんに行っているというのを知っているその先生がわざわざ教えてくれたという訳だったのです。

しかしながら、その事はまだ直接おばちゃんに訊いたことはありませんでした。

話が一段落着いて2人いたオジサンのうち一人が席を立ってお勘定を済ませた後に私はおばちゃんに恐る恐る訊きました。「あのさ、脇でちょっと聞いたんやけどココってもしかして立ち退きになるとかいう事無いよね?」と。するとおばさんは一瞬顔を曇らせて「うん、ほんと」とのシンプルな返事。その後は暫く沈黙がありましたが、訥々と語られたその内容はやっぱり前情報の通りビルのオーナーによるリクエストの様でした。

暫くはその話を細かく聞いた後、最終的には店を二月末か三月半ばには閉じてそのまま明け渡すことになるようです。

亀ちゃんのおばちゃんと残っていたもう一人のおじさんとはその後に壁に掛けてある二匹のタイマイの剝製の事で長い議論となりました。ヤニだらけのそのタイマイの由来と今後の行方を話し合って熱い話し合い。騙されて人に安く渡したりする事の無いようにおばちゃんに何度も忠告。^^

その議論も終わると叔父さんも弁当持って家へ帰っていきました。すると突然おばちゃんは「さ、行くよ。店閉めよ」と言ったかと思うと、おもむろに電話帳を捲ってどこかの店に電話。一体どこに行くのかと半分?状態だったのですが、電気を素早くパチパチと消して歩き出しました。

歩くこと5分。着いたのは像ビルと言われる像の置物のあるビルのあるお店。中では韓国人のママがおばちゃんを抱きしめて歓迎。私とおばちゃんはカウンターの席で隣り合っておばちゃんの家庭の話に花を咲かせました。話す内容はほぼ傷の付いたレコードのようなもので、さっき言っていた同じ話を何度も何度もしてきます。w

私はその都度、なるほど!なるほど!と合いの手を入れて更に別の話を聞きだすことでおばちゃんの今までの人生がどんなもんだったのか、今池の昔はどうだったのかというのを嫌という程聞かされました。

帰りに払う段になっておばちゃんが「お前は黙って私に払わせろ」と言いましたが、私はママに目配せして受け取らないようにしてもらい私が払わせていただきました。店を出た直後に韓国人ママが追いかけてきて私達にお土産と称して大量のお菓子と韓国のりを持たせてくれたのですが、これはこれで困ってしまった私です。

私はピロリ治療の最終日だったので、酒は一切飲んでいなかったのですが、病院に停めていた車に乗せておばちゃんを送ろうとしたらおじちゃんが迎えに来るというのでそちらはお任せ。若水のほうに揚々と帰っていくおばちゃんを見ながら、もうこういった歴史上の人物とここで飲む時間もあと僅かなのかな…とちょいと寂しい気持ちになりながら家路へ着いたのでした。

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