2016年2月25日木曜日

スジ者の最後

病院というところはありとあらゆる人生を送ってきた人の最後を看取ることが本当に普通です。

ありとあらゆるというのはポジティブな意味でもネガティブな意味でも・・・。最近立て続けに日本最大級のそのスジの組織の方の最後を看取る事がありました。
入院自体は私が日本に帰国するかなり前のことで、入院歴は既に長かった方でしたが、入院当初の比較的元気だった頃は看護師に悪態をついたりヘルパーさんをパンチで脅したりと娑婆っ気の抜けない感じでいろいろな悪さをされたという伝説をその当事者の方々から伺いました。

ところが、私が担当になった頃は既に歩くこともままならないような状態にまで病で衰えてしまっており、全身に墨は入っているものの顔は実に柔和そのもの。宗教家のようになっておりました。もともとは男前で整った良い顔をしており、きっと昔は”滅茶苦茶”女にモテたんだろうな〜って確実に感じさせる方でした。

病棟を移動した際の持ち物検査で、あの有名な金バッジの代紋を2つ持っておられることが判明しました。(既に若かりし頃に属していたであろう組を示すバッジの組は今は消滅し上部組織に吸収され、多分次に移ったのであろう組のバッジの組は未だにアクティブな組のようでした・・・by Google)

体中にもの凄い立派な墨を入れて居られ、まあその美術的レベルに関して言えば正直映画に出しても絵になるレベルの刺青の美術図鑑の表紙を飾れるような方だったのですが。
この墨をめぐっては最後の方では御本人は入浴時に他の患者さん達に見られるのが嫌で嫌でたまらなかった様子だったとのこと。同時に入浴する他の患者さん達に見られて人に指をさされたり話のネタにされるのが嫌で涙を流していたということで、悲しむこの患者さんを慮って看護師さん達はこの方を必ず一番最後に入浴させて誰にも肌を見させないようにさせていたとのことです。

力と勢いできっと恐怖を他人に与え続ける半生を送っていたであろう方が、最後は国の税金の力で公的機関の医療措置という手厚い庇護の傘のもとで穏やかな最期を迎えられた事に何だか人生の半端ない複雑さを見せつけられた気がしました。

この手の人達は若い頃に既に親兄弟から縁を切られている人たちも多く、世の中からは反社会勢力として疎まれ、住める場所といえば己と同じ道を歩んできた人間の集う結社たる組織の中しかなく、人生の最期も、その子であれ兄弟であれ血縁関係のある者が最後を看取ってくれないようなケースが多そうな気がします。(実際に役所が家族や縁者を探しだして最後くらいは・・・ということで連絡を取ろうとしても逆に激しい拒絶反応を示される怒りを向けられるケースの何と多いことか。)

後悔するくらいなら最初からそんな事をするなよと外野が言うのは容易(たやす)い事ですが、人の世はそんなに単純な人生を送れる幸せな人達だけで構成されているようなものでは無いということを当たり前の様に体で知っている半世紀を生きてきたオッサン医師の独り言でした。

この人達がせめてあの世では幸せに肩肘張らずに安らかに生きていけるといいなと思わずには居られません。

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